狂気と書いて〝モンスター〟そんな感じで連想して想像がつく物語だと思った、もちろん予告は見ていたが…
だがここまで人間味の深いストーリーが展開されていくとは想像もしなかった。
この作品でモンスターと形容される主人公 添田には、私も人の親として、もし同じことが起きた時の怒りの衝動は共感できる。
そしてここまで人間の極限状態を表現した作品が生み出す感動のラストに誰もがいつ被害者、あるいは加害者になってもおかしくないデリケートな現実を受け入れた上で、私的な人生経験も重なり、涙が止まらずエンドロール後しばらく席を立つことができなかった。
この映画こんな方におすすめ! ~鑑賞のススメ~
- 何でもかんでも人のせいにしてしまう方
- 愛する家族がいる方
- 絶望的な人生経験をした方
- 誰かしらに殺意を持っている方
- 突発的衝動が抑えられない方
作品あらすじ
全てのはじまりは、よくあるティーンの万引き未遂事件。
スーパーの化粧品売り場で万引き現場を店主に見られ逃走した女子中学生、彼女は国道に出た途端、乗用車とトラックに轢かれ死亡してしまった。
女子中学生の父親は「娘が万引きをするわけがない」と信じ、疑念をエスカレートさせ、事故に関わった人々を追い詰める。
一方、事故のきっかけを作ったスーパーの店主、車ではねた女性ドライバーは、父親の圧力にも増して、加熱するワイドショー報道によって、混乱と自己否定に追い込まれていく。
真相はどこにあるのかー?少女の母親、学校の担任や父親の職場も巻き込んで、この事件に関わる人々の疑念を増幅させ、事態は思いもよらない結末へと展開することにー。
Filmarksより
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予告編
キャスト
添田充ー古田新太
青柳直人ー松坂桃李
松本翔子ー田畑智子
花音ー伊東蒼
野木龍馬ー藤原季節
中山緑ー片岡礼子
今井若菜ー趣里
草加部麻子ー寺島しのぶ
作中舞台
作中舞台となっている海辺の綺麗な町は愛知県蒲郡市です。
解説・感想 ネタバレあり
主人公である添田(古田新太)は同僚若手の失敗も容赦なく罵倒する、無骨で短気な漁師。
添田の性格は昭和以前に日本に蔓延していたような古い考えの人間であり、20年ほど前までであれば、〝亭主関白〟や〝男らしさ〟という表現でカモフラージュされていたのかもしれないが、残念ながら現代ではそのような思考は〝無知〟と〝弱さ〟で片付けられてしまうであろう。
そのことに気づかず、さらに周囲の意見にも耳を貸さずにワンマンで生きてきた化石人間の添田は言ってみれば、日本の
〝人間酷宝〟と言ってもいい人物かもしれない。
おそらくそんな添田の性格が原因で翔子とも離婚しているのだろう。(これはあくまで想像)
添田の娘を亡くした心の葛藤はひとまずさておき、今作ではモンスター化した添田の標的にされる人物がスーパーの店員の青柳(松坂桃李)だ、青柳の性格は添田とは真逆の小心者で添田の勢いに対しなすすべなく怯え、ただただ謝ることしかできない男。
化石思考
添田のような化石思考の人間の考えそうなことはこんな感じだろうか、あくまで今作中で当てはまるシチュエーションで。
〝子供は飯を食わせて学校に行かせていれば勝手に成長する〟
〝子供は親の言うことは何でも従うものである〟
〝でも娘のこと本当は大好き〟
添田はこのように思っていると推察する。
すれ違い
添田と娘の花音の最後の会話は、
花音 「お父さん、学校のことで相談があるんだけど…」
と言った後、
母 翔子から買ってもらい添田には内緒にしていた花音の携帯電話の着信が鳴る。
そこで添田の逆鱗に触れ花音の話は終わってしまい、花音の携帯電話は添田によって庭に投げ捨てられてしまった。
ここで添田と花音のすれ違いが起きていることがわかる。
タイミングというか…最後まで娘の話を聞いてあげない添田の性格の欠点であり弱さと言ってもいいのかもしれない。
そんな頑固な性格の父親である添田の影響もあり花音は添田には心を開きたくても開けない関係だったのかもしれない。
突然の別れ
花音はスーパー青柳でマニキュアを万引きしたところを店長である青柳に捕まり一旦は事務所へ連れて行かれるが突然走って店の外へ逃げてしまう。
追いかける青柳、その2人の走りは全速力だ、だが花音は車の影から飛び出した瞬間、乗用車に跳ねられさらに反対車線に投げ出されたところを大型ダンプカーに引かれて死亡する。
連絡を聞き駆けつけた添田は花音の醜い遺体を見て号泣する。
後に駆けつけた母親である翔子に
添田 「見ない方がいい…」
と言う、緑は暴れ過呼吸になり座り込む。
ワンマン気質が印象深かった添田の娘への純粋な気持ちが現れた瞬間だった、添田は前述したようにワンマンで頑固な親父ではあるが、決して花音に対して虐待をしていたわけではないということを忘れないでおきたい。
添田と添田の元妻 翔子は突然の悲劇により愛娘花音と永遠の別れとなった。
やり場の無い怒り
娘を失った添田のやり場のない怒りは直接的な原因である青柳へ、そして花音が万引きなどするはずがないと言い張り花音が通っていた中学校へと向けた、あくまで花音が潔白であるという添田の推測でモンスター化した添田の復讐劇が始まる。
モンスター添田
対中学校
添田は花音の中学校へは校長と担任の今井へいじめの兆候がなかったかを問い詰め集中砲火を浴びせる、校長はあくまで学校側の状況が不利にならないようにコントロールしようとし、担任の今井は若年ながらも冷静沈着にあまり目立たなかった花音のことを受け入れたうえで冷静に対処し真実を添田に伝えようとしていた。
対マスコミ
事故後連日家のまえに張り込むマスコミに対し、添田は容赦なく罵声を浴びせ、さらに追及しようとするマスコミには手を挙げる勢いで掴みかかっていた。
対加害者(乗用車運転手)
花音を最初に撥ねた乗用車を運転していた女性は何度も母親(中山緑ー片岡礼子)と一緒に添田の元を訪れ謝罪をするが添田はそれすら受け入れずに「どけ!!」と一蹴するのみだった。
※2台目のダンプカーの運転手に関しては警察の事情聴衆で「(人は)見えました、気づいてブレーキは踏みました、間に合いませんでした。」と強く主張するシーン後は登場することはなかった。
対青柳
添田は花音を追いかけたスーパー青柳の店長である青柳には全力で恫喝し追い立てる、添田の娘を失ったことへのやり場のない怒りはほぼこのおっとりした性格の青柳へ向けられた。
エスカレートする添田は店に押し入り、出口で待ち伏せをし、あらゆるいやがらせで青柳を精神的に追い詰めていく。
だが日にちは建てども、攻撃する添田、謝りまくる青柳の構図は同じで、決して状況が進むこともなくもちろん戻ることもなかった。
転機
周囲を巻き込んでもどこ吹く風で荒れまくる添田だが、一貫して崩さなかったのはその感情の出どころだ、自分の性格にどこかでイラつきながらも添田なりに娘の花音を思っての行動であったことは間違いないのだろう。
なぜそこを考察するのかというと私の経験上、添田のような極度に感情的になってしまう人間の多くは相手の為ではなく気が付いた時には自分のために行動してしまっている人が多いように感じていたからだ、しかしこの添田はその点に関してはブレていないのである。
そんな感情が高ぶっている状態の続く添田にもさすがに心に針の刺さる出来事が起こり始める。
元妻からの言葉
元妻の翔子は〝俺には花音しかいない〟という添田に対し、
翔子 「あんた…花音しかいないって言うほど、あの子の何を知ってるの…」
「花音の好きな色知ってる?好きな食べ物は?…」
「花音が盗んだマニキュアの色知ってる?」
添田 「そもそも花音は万引きなんかしてねえし、そんなのつけてるの見たことねえ!!」と言い張る添田だが、間髪入れずに翔子は
翔子 「透明だったって…」
と言い張り、普段の花音、そして事故当時の花音の持ち物さえ見てもいない添田に父としての自覚を問い正す。
加害者の自殺
そしてあれほど反省し何度も謝罪に来た花音を轢いた乗用車の運転手の女性が首を吊り自殺してしまう、通夜に現れた添田に加害者の女性の母 緑が近づく、
添田 「何を言われても謝らねえぞ」
添田はこの状況でもこのような言葉を放つ。
そしてここからが私がこの映画で一番心を打たれたシーンだ。
片岡礼子さん演じる中山緑が自分の娘の通夜で泣きながら娘の代わりに添田に謝るシーン、娘を思うからこその、それでもこうなってしまったことへの添田への憎しみを押し殺し、涙で震える言葉だった。。。本当に何とも言えない。。。非常に鑑賞者に重くのしかかってくるとにかく深くもあり素晴らしい演技だった。
緑 「事故を起こした責任を。。。謝ってどうにかなる問題でもないことはわかっています。。。どうか娘を許してください…」
謝らないと言っていた添田は、謝らないまでも、さすがに親としての責務を全うしている緑を目の前で見て無言になり俯いてしまう。
壊れていく青柳
添田は徹底的に青柳へ詰め寄り青柳はとうとう土下座をするが、それでも一蹴して追い詰めていく、ここまできても尚も事故現場へ青柳を連れていき、現場でどのようなことが起きたのかを精神崩壊寸前のふらついた青柳に説明させる。
するとそこへトラックが走ってきて青柳が轢かれそうになるのを添田が助ける、トラックの運転手は窓を開け「あぶねえだろ!!」と怒鳴るが、添田は「うるせえ!ガタガタ言ってるとぶち〇すぞ!!」とそれ以上に恫喝し、トラックは走り去る…
その様子からは添田はどこか花音を轢いたダンプカーの運転手に対しての怒りをぶつけたようにも見えた。
そして倒れこんでいる青柳に対し、添田は
添田 「死ぬんだったら他人に迷惑かけずに一人で死ね!!」
と変わらぬきつい言葉を浴びせるが、少し添田の心の中に変化があったようにもみえたシーンだった。
事件後のマスコミの執拗な過剰報道もあり、青柳は父から受け継いだスーパーの経営を辞め店を閉めてしまう、そしてさらに精神崩壊していく。
店の事務所のドアで首を吊ろうとしていたところを店の従業員の草加部に助けられる、草加部は店長の青柳に気がある面倒くさいほど前向きな性格の独身中年女性だ。
添田は花音の遺品整理をするうちに花音の私物に触れ、花音がどういう気持ちで毎日を過ごしていたのかを知りたくなっていた、自分が投げて壊した花音の携帯を見つめ、花音の読んでいた少女漫画を読み、花音のぬいぐるみからその中に隠していた化粧品(盗品?)を見つけ、公園のゴミ箱に捨てた、花音と(花音の遺品と)向き合ったことで分かった真実だった。。。
そして添田は心の整理をするためか〝水彩画〟を始める、その完成度は酷いもので弟子の野木にも馬鹿にされる出来だった、これまで描いた絵を野木に説明しながら見せる添田、
『野木』、
『最近見えたイルカの形をした雲』、
『花音』。。。
絵心のあるなしはおいといて、心なしか添田が穏やかになっていくように見えた。
イルカ雲と空白
花音の四十九日が終わり、添田 翔子 野木の三人は定食屋で昼食をとっていた。
店内のテレビに映るワイドショーはつい最近までは自分のことを熱心に報道していたのに今はもう全く別の話題だ、それでも気を利かせてテレビを消すように店員に頼み込む野木、テレビは消されたが、添田の口からは「いいよいいよ気にしないで」という言葉も出る。
翔子のお腹には今の旦那との子が宿っていた、野木が予定日や性別の判別などを翔子と話をしているが添田は今の翔子の旦那のことを軽い浅い奴と根拠もない言葉でけなして憎まれ口をはさみ、また喧嘩が始まってしまった。
だがさすがに翔子も今回は、献身的な今の旦那とその旦那の少ない給料から不妊治療を経てやっとの思いでできた子供のことを馬鹿にされ、添田にキレた。
翔子 「あんたなんかに軽いだとか浅いとか言われる人じゃない!」
いつもの添田だったら応戦していたが違っていた、
添田 「悪かった、俺が間違っていた、すまない、本当はそんなこと思っていないんだ。お腹の子は幸せになってほしいんだ、悪かった。」
添田が謝った、、、
添田が花音の父親として男になった瞬間だった。。。
帰りのタクシーの後部座席に翔子と座っていた添田は、花音と同じ中学生が陽の当たる海沿いを歩く姿を見ながらつぶやいた、
添田 「みんなどうやって折り合いつけるのかな。。。」
翔子は太ももの上に置いていた添田の手をそっと握った。
まるで心の中で「現実から逃げずにお互いに頑張っていきましょう」と言っているようだった。
その後、添田の元に花音の担任の今井が訪れた。
花音が書いた数枚の〝絵〟が学校で見つかったので届けに来たのだった。
絵を一枚一枚見ていく添田。。。そしてどこかで見たような景色の絵で手が止まる。。。
イルカの形をした雲の絵、添田が珍しい景色をみて思い出して書いたあのイルカの形をした雲の絵と同じ景色の絵だったのだ、イルカの形をした雲が出ていた時間、その時間違いなく添田と花音は同じ景色を見てその景色について何かを感じて絵を描いたのだ。。。
添田が娘を無くして気づいた大きな空白、添田が得た娘と共有できた大切な時間が見つかった以上、それは決して虚無なものではないのかもしれない。
まとめ
人生において真に悲しい出来事があった場合によく湧いて出てくる〝時間が解決する〟という言葉が嫌いだ。
その言葉を発するほとんどが当事者ではない周囲の人間が言う気休め的な軽いお約束の言葉であり、事象ケースにもよるが、当事者からすれば〝時間なんかでは解決しない〟と言い切れるほどの悲しい事もこの世の中に多く存在するからだ。
〝時間なんかでは解決しない〟該当例はほとんどが事故や事件であると推測されるが、この映画『空白』もそんな〝時間なんかでは解決しない〟事故のひとつだと思う。
この作品を振り返ってみると、すべての登場人物が被害者であることがわかる、そして誰が悪かったのか何が悪かったのかの原因も掴みきれない。
ここをああしておけばこうしておけばの話ではなく、最後まで本編を見た方であれば、あれだけモンスター化した添田でさえ決して諸悪の根源として捉えることはできないのではないかと思う。
人間はこうした悲惨な事故が起きる前提で人格形成されている人は少ないと思うので、そうなった時の対応能力を冷静に発揮できる〝精神力〟を身に着けておくのが正解なのかもしれないですね。
古田新太さん、松坂桃李さんはじめ、キャスト陣の迫真の演技は目を見張るほどのものでした。
前述しましたが特に印象に残ったのは加害者である女性運転手の母親役の片岡礼子さんは、決して出演時間は多くはないものの、娘の通夜のあの1シーンで心打たれました、本当に素晴らしかった!!
映画『空白』は、単なるヒューマンサスペンスというジャンルでは語ることができない傑作と呼ぶにふさわしい映画でした。
以上、
今回もお読みいただきありがとうございました。
それではまた!
GB
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